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心の理論


「心の理論」は、ヒトや類人猿などが、他者の心の状態、目的、意図、知識、信念、志向、疑念、推測などを推測する心の機能のことである。
もっとくだいて言えば「心の能力」の理論と言った方が解り易い。
十人十色と言われるように、人には人の考え方があって、他者にも自分と同じように心(主観)が存在するのだと言う事を認知できる能力を指す。
まるで当たり前のように思う方が自然かもしれないが、人の発達におけるこの能力の体得は、今の心理学の中心テーマになっている。

哲学者ダニエル・デネットは子供が「心の理論」を持つと言えるためには、他者がその知識に基づいて真であったり、偽であったりする志向や信念をもつことを理解する能力、すなわち誤信念を理解することが必要であると示唆した。これに基づきハインツ・ヴィマーとジョゼフ・パーナーは心の理論の有無を調べるための課題を提案した。これを誤信念課題(False-belief task)という。この課題を解くためには、前述したように他人が自分とは違う誤った信念(誤信念)を持つことを理解できなければならない。

最も有名な課題がサリーとアン課題(Baron-Cohen S, Leslie AM, Frith U (1985))である。
1.サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいる。
2.サリーはボールを、かごの中に入れて部屋を出て行く。
3.サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移す。
4.サリーが部屋に戻ってくる。
上記の場面を被験者に示し、「サリーはボールを取り出そうと、最初にどこを探すか?」と被験者に質問する。 正解は「かごの中」だが、心の理論の発達が遅れている場合は、「箱」と答える。

この課題により、人が「心の理論」を体得するのは4歳だとされている。

しかし、この課題は言語の文脈が理解できる発達年齢であり、いわゆる言語能力を体得する前に、この能力は体得されているのではないかという反論があり、実証実験されたのが今回の動画である。
乳幼児は言葉を発することは出来ないので、一般的には乳幼児の事物に対する注視時間の長さを持って測定することになる。

この能力が注目されるのは昨今言われる自閉症スペクトラムと関連があるからである。
健常児が4歳ごろから解決可能になる誤信念課題を自閉症児がなかなか通過できないことで知られている。この結果に基づき、自閉症の中核的障害が「心の理論」の欠如にあるという考え方が提案されている。ただし、すべての自閉症児が誤信念課題に失敗するわけではなく,通過する自閉症児も一定の割合でいること、そしてこのような実験が言語による教示を解するいわゆる「高機能」の自閉症児に対して行われてきたことなど、「心の理論欠如仮説」に反する証拠も存在する。

いずれにせよこの概念の研究は認知神経科学や進化心理学で脳の活動と関係があることがわかりつつある。
また、これまで心理学的な概念としてあった高次の心的機能である「共感的理解」や「社会的規範」の認知などが、脳の活動とのつながりで実証される日も近いと期待されている。
by jun_hara | 2015-06-28 00:46 | 情報 | Comments(0)


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