認知行動療法(Cognitive behavioral therapy、以下CBT)の第3勢力として行動療法的認知行動療法であるACTが注目されている。
基本的にCBTが伝統的な心理療法と違うのは、不適応などを発症させている初期原因に遡るのではなく、不適応を持続させている原因(持続原因)に焦点をあてている事が最大の違いである。 これは不適応な認知や行動についてその原因を「分離-個体化の乳幼児期」、「エディプス期」などの発達論的な観点から探ることよりも、どうすればその不適応という現象が消去でき、適応的な認知や行動を学習できるかに集中することを意味する。 要するに「初期条件(または原因)がわかれば治療できるのではなく、持続条件(または原因)がわかれば治療できる」とする所以である。 CBTは一つの治療法ではなく、起源が異なる暴露法などの行動療法(第1勢力)と認知再構成法に代表される認知療法(第2勢力)の統合的療法の総称であり、一般的にCBTと言う場合、認知療法を指していることが多い。 ただ現場においては、こういった厳密な区分を設けず、ランダム化比較試験などの効果研究に基づき、仮説検証型のケース・フォーミュレーションを行い、「あるものは何でも使う」といった態度もCBT的であると言える。 CBTの名のもと、さまざまな新しい臨床技法が登場してきたが、ここにきて一番注目されているのがACTである。 第3勢力として押さえておくべき概念が「アクセプタンス」、「コミットメント」、「マインドフルネス」である。 「アクセプタンス」とは、与えられているもの(感情、思考、症状、身体感覚など)、「今、ここ」で経験しているものを、判断を介さず受け取ること。 「コミットメント」とは、具体的なホームワークや行動的エクササイズを使って、「価値」に沿った(障害からの回復に)効果のある行動をすること。 「マインドフルネス」の状態とは、ある特定の仕方で注意を払うこと、つまり、目的にそって、当該時点において、無評価的に注意を払うこと。 アクセプタンスを行うためには、当然、注意を向け続けること、判断を避ける(あるいは素早くそれを解き放つ)こと、さらに覚醒の程度に気を配ることなどに対して、マインドフルネスに関わる必要がある。 これらは非常に東洋的な概念であるが、それ故日本人に馴染みやすいものだと思う。 ここで重要なのは、マインドフルネスが中心概念になっているが、この前に必ずアクセプタンスが裏打ちされていなければならないことである。 アクセプタンスを忘れて、マインドフルネスはない。日本の精神、文化、芸術には、アクセプタンスが流れている。大きなものの愛情、慈悲に包まれている=受容されている、根底に包むものがある、これが日本人の精神の根底にある。受容されないと、落ち着いて、マインドフルネスできない。これからは、マインドフルネス心理療法、マインドフルネス心理学ではなく、アクセプタンス心理療法、アクプタンス心理学を強調していくことが大切であるように思う。 日本では、特にそうである。 こどもがクラスメートをいじめるのは、ささいな不愉快さを受容できず、存在全体を受容しないのである。この同じような状況が虐待、暴力と見捨てられ不安、社会におけるぎすぎすした人間関係、うつ病に追い込まれる働く人、高齢者への虐待、・・・。国と国の争いも。アクセプタンスがないのである。親が子を受容しない、子が親を受容しない、夫婦が互いを受容しない、職場で同僚、部下を受容しない、非正規社員を受容しない、医療・福祉の現場で相手を受容しない。アクセプタンスの底の底も、西洋と日本とでは違うようである。 日本人は、どんなに悪い自分でも見捨てられない、無条件で、絶対的に受容されているという安心を求めてきた人種のようである。東洋のうちでも条件つきの受容があって、日本は特に無条件の受容心を発見したのである。人が生きていくうえで、自分がアクセプタンスされていてこそ、相手にやさしくなれるのである。相手の不十分なことを受容して、対決しない行動を求めていけるのである。 相手の底にも人格を見るからだ。 ささいなことで怒り、比べようもないほどの命をうばうこと、自殺に追い込むことをしない。 アクセプタンスがないマインドフルネスは破綻すると思われる。 ことほど左様に、日本人特有の魂のようなものがあるとするならば、こういった価値観と歴史が根底にあると思われるのだが、これはあくまでも論理的仮説にすぎず、初期条件(または原因)を求めないCBT的思考法からすれば不要かも知れない。
by jun_hara
| 2015-07-21 22:28
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