DSM-5

e0027033_2150717.jpgアメリカ精神医学会(APA)が作成したDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神障害の統計・診断マニュアル)が世界共通の精神障害(精神疾患)診断基準として広まり始めたのは、1980年のDSM-Ⅲからである。
それまでの精神医学の分類では病因論に主眼が置かれており、その根拠となる理論は共通化されていなかった。
そのため同じ統合失調症でも別の医師から観れば双極性障害であったりと、診断が一貫しておらず、勿論、介入技法も統一されたものではなかった。
そこで学派を超えて、各精神障害の症状や特徴を列挙した一覧表を作成して、その症状や特徴のうち○○個以上が当てはまっていればその精神障害だと診断すること(症候論及び多神論的診断)ができるという、誰もが使えるように工夫された『マニュアル診断』として完成したのがDSM-Ⅲである。
またDSM-Ⅲからは診断基準として
第Ⅰ軸……精神疾患
第Ⅱ軸……精神遅滞(知的障害)とパーソナリティ障害(人格障害)
第Ⅲ軸……身体疾患
第Ⅳ軸……環境的問題(心理社会的問題)
第Ⅴ軸……機能の全体的な適応評価(GAF:Global Assessment of Functioning)
と言った5つの軸からなる診断を基準として設けた。これを多軸診断と言う。
DSM-Ⅲの登場により診断の統一基準ができたことで、世界共通の診断が可能になったことと同時に、あくまでも統計学に基づくマニュアルであり、その後の研究と知見によって改定されることを目的とされたものなので、1994年にはDSM-Ⅳに改定され、2000年にはDSM-Ⅳ-TRに改定されている。
しばらく改定がなされていない中、2013年にDSM-5に改定され2014年に日本語版も登場したのであるが、精神疾患分類名以外で大きな改定となったのは、「多軸診断の廃止」と「多元的(ディメンション)診断の採用」である。
DSM-Ⅲ以来取り入れられていた多軸診断は精神疾患の因子として第Ⅳ軸など心理社会的ストレスなどが尊重されたものであったが、実際の臨床現場においては第Ⅰ軸の精神疾患基準しか用いられていないという現状があり、廃止されたという経緯がある。
多元的診断というのは、自閉症スペクトラムに代表される各疾患単位や各パーソナリティ障害のスペクトラム(連続体)を想定して、各種の精神疾患・パーソナリティ障害・発達障害の重症度(レベル)を『パーセント表示(%表示)』で表そうというものである。
この症状や不適応の重症度のレベルをパーセントで表現しようとするアイデアは、古くから認知療法や論理療法の『自己評価方法(気分が最高の時を100%、最悪の時を0%にするなど)』として採用されていたものでもある。
しかし、自閉症スペクトラムへの統合においてアスペルガー障害の分類をなくしてしまったことで、これまでの知見の蓄積が生かせなくなることや、正常と異常の明確な分類がなくなることで、診断があいまいになり、自己治癒力のある人までも精神疾患に振り分けてしまう危険性などが指摘されており、DSM-5の批判は少なくない。
DSM-5への改定においてこれだけ期間があいたのは、脳科学、神経科学、遺伝子科学の飛躍的な発展に伴い、症状に対する科学的解明が期待されたからであったが、あくまでも統計学の領域を出ないマニュアルとしては統一的見解を出すことに難しさがあったのではないかという意見がある。
と言うのも、DSMに研究や知見が採用されると言う事は、医学者や製薬業界にとっては莫大な利益をもたらすからで、事実、DSMの制作委員会へはかなりの売り込みや政治的な圧力があったと言われている。
by jun_hara | 2015-08-01 21:50 | 情報


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