カウンセリングの父、カール・ロジャースが提唱したカウンセラーの3条件は有名である。
整理すれば ◆共感的理解 クライアントの話をあたかも自分のことのように受け止め、理解を示す。カウンセラーの枠組みではなくクライアントの枠組みで感情や考えを理解していくということ。あくまでも「あたかも」という性質を失わないことが重要である。 ◆無条件の受容 クライアントのありのままをすべて受け入れると言うこと。すべて受け入れ肯定することでそこに何かが生まれると信じている。 ◆自己一致(純粋性) カウンセラーが自分を偽らず、自分自身に対して誠実なことであり、あるがままの自分を受容していることをいう。たとえば、自分がクライエントを嫌ったり恐れたりしているとき、それをごまかさないで、素直にそのことを認めて自らを許していることである。 となり、「言うは易く行うは難し」なのは周知である。 しかし、話はここで終わらない。 ロジャースはこの3条件を発表した翌年、新たに一つの条件を加えた。 要するに、カウンセラーがこれらの態度を身に着けていても、クライアントに伝わらなければ意味がないということである。 これはロジャース自身が真摯にこの3条件と向かい合っていたことを意味するだろう。 心理学者に限らず、実践の伴わない理論家にはこの柔軟性が希薄な場合が多い。 とりわけアカデミックに固執するあまり、難解な用語や理論で煙に巻こうとし、最後は自分の言い訳けで締めくくらないと終われない人たちも少なくない。これは今に始まったことではなく、古代ギリシャ時代から「論理のための論理」すなわち詭弁として忌み嫌われていたことである。 真理の追求に難解さが伴うことは事実であり、誰もがこれに憧れる。 しかし自分の言葉にできるかどうかにかまわず、難解な用語で語ることは慎むべきだろう。 本来理解できるはずの説明や伝達を放棄したならば、それは自己陶酔にすぎないからである。 本当にスマートな人は、語る人により説明の仕方をわきまえているのである。 しかし、他者の説明に同一化してしまっていないかに気づかないならば、無意味なモノマネになり滑稽であるだろう。 カウンセリングや心理療法はクライアントにだけでなく、あらゆる人にアカウンタビリティを負っている「実践」である。 そういった意味でロジャースの言う「傾聴」と言うのは「言うは易く行うは難し」なのであって、論理的に難しいわけではなく「真摯な気持ちがあるか」という点で「実践」が難しいのである。 要するに臨床心理学は「実践の学」であるところに存在理由があるため、現場で説明できる能力がない者は関わるべきではない。 はっきり言えば社会性のない者が正常とか異常とか言える立場ではないのは明らかであり、ましてや軽々しく「個性化」を口走ってはいけないのである。 昨今、効果研究ブームであるが、この点を忘れては間主観どころか、自分さえも客観的に判断しているとは言えないだろう。 臨床心理学の実践家を目指す場合、まずは構成概念を自らに当てはめるところから始まると思われる。
by jun_hara
| 2016-05-18 21:28
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