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旅の効用

東京に住んでいる時、喧騒から脱出するために、週末多くの国内旅をし始めた。
最初は旅慣れていないことから、レンタカーを借りて、大掛かりな計画ばかりをしていたが、そのうち草津温泉という1泊で行くのにちょうどいい場所に固定化していった。
しかし、この観光地、山奥にあるため、食事の選択肢が非常に限られている。そこで出会ったのがオーナーシェフの経営するペンション・レザンだった。

草津温泉は日本で最初にペンションが開業したところである。皇室と関係の深い軽井沢と勘違いしやすいが、軽井沢の場合、ペンションではなく別荘地のメッカである。この二つの土地は車で30分の距離であるから、ほぼ同じ環境のように思えるが、軽井沢は浅間山の南に広がる地域で今や新幹線通勤さえ可能になっている。方や、草津は白根山の麓にある陸の孤島である。また、白根山は本州で一番早く紅葉が始まるのであるが、それもこの山自体の標高故である。

話を戻して、なぜペンションを定宿にしたのかは、料金と立地条件だった。草津温泉の日本旅館の宿泊料金は、関西の有馬温泉レベルであるから、決して安くはない。しかし、ペンションの場合、1泊2食で1万円を切るのが通例になっている。また、湯畑の喧騒から徒歩で10分離れたエリアがペンション村であり、静かな散策が可能になる。
それに僕個人の性分であるが、人とペースを合わせて旅をするのが苦痛なのである。
バブルの頃はバカみたいに、二人旅やスキーや音楽合宿を楽しんでいたので、生来の一人好きなわけではないが、一人旅に嵌ってからは、滞在先の歴史・文化・風土にできるだけ浸りたいため、旅の時間で会って話したいと思うのは、現地の人か、旅先で偶然出会った人であり、そこで交わされる言葉は明らかに新鮮味が違うことに気づいたのだった。

2年前までは10年以上、毎年紅葉シーズンの草津バス旅を続けていた。
2013年、JET-STARなどのLCCが成田空港を拠点に日本全国を飛び始めて、北海道から沖縄まで往復1万円以内で行けるようになった。当時の住居は成田へ向かう直行バス(東京シャトル)乗り場の日本橋まで徒歩30分だった。このバスは電車が最低でも片道2,000円以上はかかるところ、900円であるから、現地で使う交通費を除くと、往復ほぼ1万円で済む。宿はNetが完備されていれば、ほぼ不便がないところを予約。よって、夕食の店だけを奮発してカウンター席の予約だけを入れておく。夕食はカウンターで店の人や地元の常連さんと話をする。だから、ある程度地元のことを知っていないと話にならないのであるが、それは前もって調べていて一番面白いことだし、実際にどうなのかは現地の話を聴くまで質問するための仮説として持っておけばいい。これだけで初対面でもいろいろ話に花が咲くし、次の日に歩く場所の情報源にもなる。しかし、なにより現地のイントネーションに交じって話している会話そのものが、同じ国でありなが微妙に違うところに新鮮味があるのだ。

日常に追われていると、まるでこの世に存在する人間は同じコミュニティの人かメディアを経由して認知している人だけだと思いがちになる。しかし、非日常の環境に身を置いて、ちょっとばかりの近い距離で会話をするだけで、生活世界が広がる。
また、旅となると、どうしても経費のことを外せないが、最初はピンポイントで有名な観光地巡りから始めても、何回か同じ場所へ行ってみるだけで、新たな隠れ家的な居場所になる事がある。
世界情勢不安で海外旅行が難しいのであるが、かえってこれは国内旅行の魅力を再発見する機会である。

ここのところ地方を歩いていて思うのは、高齢化率と過疎化のスピードの速さであり、中国人観光客の増加率も顕著である。このままでは、10年後、地方都市は限界集落化するのは明らかで、若者が大都市圏にしか存在しなくなってしまうだろう。
もしかしたら、現地の言葉で触れ合う旅も今のうちだけなのかもしれない。
そうならないうちに、できるだけ多く、安くて美味くて深くて楽しい旅をしておきたいものだ。
↓旅の記録
http://junhara.net/Column.html
by jun_hara | 2016-08-31 15:29 | 独り言 | Comments(0)


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