戦争を知らない人のための靖国問題を読み終えた。
出だしはあまりメディアで取り上げられない事実を紹介しているので読み進めたが、そのうちにだんだん嫌気がさしてきた。 最初に嫌になったのは、論法が一貫して戦中の独善的でドグマになりがちだったことだろう。 すべての主張に反論する気はないが、この著者はこの国がどうして戦後、言語明瞭意味不明な外交の展開をなしてきたかの裏側が全然わかっていない。 サンフランシスコ平和条約に関してが特にそうで、あれは全面的な独立宣言ではない。 表向きはそうであっても東西冷戦の西側に属する宣言にすぎず、あの時に日本はアメリカの属国である宣言をしたのに等しいのだ。 名より実を取ったにひとしいのだという解釈をなぜできないのか? 著者の論理ではあの条約に調印した加盟国しか日本のことに口出しをできないとしており、その時の調印した国に中華人民共和国と韓国が入っていないから、現在靖国参拝に口出しをするなと何度も書いているが、両国の建国に至るまでの経緯について著者は実体験で無理であることぐらいは時系列的に考えればあり得ないことを言っているのはわかるはず。 そしてこの両国の誕生の原点が太平洋戦争だったのはわかるはずだろう。 それなのにあの条約にこの両国が賛同していないからなどとよく言えたものだ。 A級戦犯の靖国合祀については、僕自身不勉強だったけれど、この本で唯一「あっそうだったのか!」と分かったのはこの箇所だけである。 前述した条約締結後、日本は独立国として世界に承認され、東京裁判と言う勝者が敗者を裁く異常性を訴えることなく、その時の情勢判断でBC級戦犯を開放し、また、ご遺族を擁護した法案を可決したことには天晴れと思った。 しかし、A級戦犯について靖国に合祀されたことにつき中国や韓国に言われる筋合いでもないかのごとき展開の連続には辟易とした。 著者の論点の中には「侵略が悪いというのならアヘン戦争も裁くべき」とか、「前条約時に成立もしていない国にA級戦犯のことを言われる筋合いがない」とか書かれているけど、そういう歴史にした張本人としてこの国は関わり合いがないのかと言いたい。 東京裁判の違法性に対する正論も、あの戦争に突入していった時代の運命も学んだ上でなおさら、あの戦争の犠牲者、戦死者や大陸の異民族の犠牲について日本は正当化できるはずもないのだから。 この本の最後は両国の首脳に著者自身が送った手紙の文言が記載されていが、これを日本の意見として送っていることには途轍もない怒りを感じた。 何様のつもりなのだ。 現首相の福田さんが小泉政権当時に立ち上げた委員会でこの著者も選ばれているらしく、その内容も書かれているが、とんだ人選違いだ。 一見、ちゃんとした取材をしているように書いているみたいだけれど、その取材先は出征兵士の戦没者ばかりで、憲兵により獄死した人たちが含まれているのか!と思った。 また硫黄島のことにもふれているがあの島での出来事を本当に知っているなら、あの島に靖国にかわる追悼施設を造るべきなどとよく言えたものだ。 この本の内容は62年以上前の洗脳された軍国少女の域を出ておらず読後感は不愉快極まりない。 ただどうして戦後右派と呼ばれた人達の論法がこの国で取り上げられなかったのかを知るにはいい材料だろう。 そうでも思わなければこの本に時間を割いたことに割が合わないと思うほど不愉快な内容だった。 一番不愉快なのはこの著者と言うよりも、編集者と出版社にだ。 このタイトルが靖国問題だったら僕は買っていない。 タイトルの頭に戦争を知らない人のためのと付け加えたのは編集者と出版社の意図だと思うし、オビには靖国問題に終止符を打つ!とまである。 今時の新書は売れればいいのか! 僕の学生だった頃にはあり得ないほど低レベルな内容だった。 ちゃんちゃらおかしい!終止符どころか僕にとっては疑問が元に戻ってしまった。 確かに何も知らされていない戦争を知らない人がこの本を教科書に使って、変な歴史観を覚えてしまおうもんなんら恐ろしい未来が訪れるだろう。 まーこんなアホな論法がまかり通るなら日本なんぞなくなればいいと思うほど、そんなバカな時代でもないと楽観はしているけど。 でも、こんな本が第7版まで売れていると思うと、この国には未だ9条は足かせとして必要なのかとも思えるくらいだ。 それにしてもアマゾンの批評に対しての賛否の数字を見て、まだいいほうかなって思ったくらいだ。 久しぶりに読後の不愉快を感じたので長い文章になってしまったが、この本を読む時間があるくらいなら、半藤一利の昭和史を読まれることを勧めたい。 こちらの本ならば今のこの国のメディアが紹介する本はまだましなほうなのだと言える。
by jun_hara
| 2007-09-29 20:06
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